位置情報共有

4月4日(水) 快晴

「他のユーザーが Google マップから位置情報をあなたと共有しました。」
と、Googleからのお知らせメールがパソコンアドレスに入っている。
そして、他のユーザー、すなわち、息子が現在いる会社がGoogleマップで表示されている。
つまり、息子とわたしは互いにいる場所が確認し合えることになっている、らしい。

はぁ?
何、これって?
じゃ、わたしが今いる場所が息子に分かるってこと?
四六時中?
画像

玄関先でお嫁さんと孫が遊んでいる。
「あなたたち、互いの位置情報を共有していたよね?」
「はい」

先日、お嫁さんが病院に行き、息子が泣き叫ぶ娘を背負ってわたしの部屋に来たことがあった。
どちらも困ってしまっていて可哀想になった。
「お嫁さん、いつ頃帰れるんかなぁ?」
「ん、ちょっと待って」
息子がスマホを開いた。
「ああ、もうすぐ帰るよ」
スマホの地図で赤い矢印が自宅に向かって動いている。
「これ、お嫁さんの車の場所なん?」
「そうそう」
…何か、違和感…
すごく、違和感…

「何か、今日、息子がわたしと位置情報を共有したらしいのよね…」
お嫁さんは、わたしの顔を見て次の言葉を待っている。
肯定している表情は読み取れない。

「わたし、こういうの嫌なんよね」
「はい…」
お嫁さんは注意深くわたしの出方を見ている。
「わたしね、冒険は一人でしたいのよ」
「ああ、分かります、分かります」
「いつも見られているなんて、気持ちが悪いんよね」
「それ、分かります」
「ほんと、何か、感覚的に嫌なんよね」
「おかあさん、明後日からお一人でお出かけではないですか、
それを心配しているのだと思いますよ」
「…」

そこへ、息子が帰宅した。
画像

「ちょっと、わたしと位置情報共有したん?」
何を勝手なことをしているのかと、明らか声が怒っている。
お嫁さんは、目を大きく開いて息子を見ている。

「そっちが拒否っとるやろ!」
息子の声も、明らかに不愉快そうになっている。
「え?」
あのメールでは「共有しました」と断定していたはず。

「あのなぁ、『はい』と『いいえ』があったやろ!」
「よう見てないから、分からん、忙しいし」
「『共有する』に『はい』をせんと、共有できんで」
「そんなん、せんでもええよ」
「せなんだら、どこで行き倒れとっても知らんで」
「…お嫁ちゃん、どう思う?」

お嫁さんは、鼻の頭にギュッと皺を寄せて答えた。
「最初は『えーーっ!』て思ったけど…」
息子をちらっと見た。
息子、笑ってない。
わたしは、次の言葉を促した。
「『えーーっ!』って思ったけど?」

お嫁さん、笑いを浮かべないで続けた。
「…慣れたら便利です。
いる場所で帰りの見当がつきやすいので…
わたしは慣れましたから…」

「あのなぁ、息子、わたしも『えーーっ!』だね。
旅ぐらい一人で出かけたいよ」
「あのなぁ、いつもいちいちどこに居るかなんて見んで。
そんなに暇じゃないで!」
息子、ショックを受けている表情が読める。
お嫁さんは息子の表情を見ている。
画像

畑を片付けていると、お嫁さんが水やりに来た。
「あれって、どう思う?」
「わたしは遠くへは行かないけど、おかあさんは遠くに出かけられるから、心配して、間違っていたらすぐに教えるつもりなんですよ」
「気持ちは有難いけど、ずっと監視されているみたいで嫌やわ」
「そうですよね、共有しなくてもいいと思います」
「東京くらい、大丈夫だし」
「日本ですからね」
「そうそう、冒険は一人でしたいし」
「そうですね、自由がいいですね」
画像

共有すれば、お嫁さんとも互いに共有することになってしまう。
それは、絶対にしたくない。

先日、息子夫婦とわたしの予定表を共有しようと息子から申し出があった。
予定表にめいめいが書き込んでいって、それを見ることが出来るらしい。
互いの予定が分かれば、子守りを頼むにも、荷物を受け取るにも便利だからという理由だった。
これも、生返事で断っている。

息子に全く悪意がないのは分かっている。
こうすれば合理的で、互いにメリットが大きいと考えている。
だけど、息子たちは夫婦であって、わたしは自分が世帯主になっている別世帯。
何もかも共有するのは、いずれは彼らの結束を乱すような気がする。
息子が傷ついても、わたしは距離を置くべき。
画像

「お嫁ちゃん、お嫁ちゃんも嫌ならやめたらいいよ」
「わたしは…慣れましたから」
「夫婦だからって、何もかも共有する必要はないよ」
「わたしは大丈夫ですから」
「ま、あなたたちは夫婦だもんね」

そうだね、いまさら自由になりたいなんて言えないよね。
便利なツールだけど、これって、どうなんかなぁ。

「おかあさん、位置情報は大体その辺り程度でピンポイントってわけではありませんけど」
「いや、べつに後ろ暗いことをするって意味ではないのよ」
…お嫁ちゃん、深読みしないでよね。

親離れも子離れもできていなくて、マザコン亭主だなんてのが、最悪だと、自分は思う。
画像

息子夫婦が転勤でいなくなれば、わたしは位置情報を共有させられるだろう。
いや、やっぱり、拒否するだろう。
どこで行き倒れていても、どこかに自由を持っていたい。
自由と引き替えに周囲に迷惑をかけることになっても、自分の自由がほしい。
認知症になって徘徊するようになって、GPSのチップを埋め込まれたら諦めるけど。
画像

6泊7日、自己責任で、ということで。
自分、どこまでも自由に生きたい。
画像


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

ガッツ(がんばれ!)
かわいい

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック